体の痛みや疲労ほぐし メンタルヘルスも期待 企業のヘルスキーパー、役割増す / 医療・健康 / 西日本新聞
●産業医と連携
福岡銀行本部(福岡市)の健康管理室。ベッドにうつぶせになった女性行員の腰をもみほぐしながら成田千恵美さん(37)が声をかけていた。「痛くないですか」。行員は目を閉じたまま心地よさそうにうなずいた。
視覚障害のある成田さんが正社員のヘルスキーパーとして採用されたのは15年前。平日の午前9時-午後4時、福銀とその関連会社の従業員に1回30分のマッサージをしている。料金はいらず、昨年度は延べ872人が利用した。成田さんは本部ビルだけでなく、保健師とともに年間30カ所ほど支店を巡回している。
街のマッサージ店は1分100円や30分3000-4000円の所が多いだけに「予約でいっぱいの日もあります」と成田さん。肩こりや腰痛、眼精疲労、足のむくみやだるさを訴える人が多いという。
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健康管理室には診療所もあり産業医の瀬戸口素子医師が常駐する。頭痛で受診した従業員に、成田さんの施術を受けるよう助言することもある。瀬戸口医師は「診療所の治療は投薬が中心で、回復には時間がかかる。その点、マッサージは即効性があるので喜ばれるんです」と話す。
反対に、成田さんがマッサージを受けに来た従業員の体調に異変を感じ、瀬戸口医師の診察を勧めることもある。成田さんは「西洋医学と東洋医学の連携が自然な形でできている」という。
●癒やしの空間
ヘルスキーパーは、あん摩マッサージ指圧師やはり師などの国家資格を持ち、従業員の健康管理や疲労回復を目的に施術する。視覚障害者を採用し、利用料は30-40分で300-500円という企業が多いようだ。
障害者雇用促進法は、全従業員の1・8%以上の障害者雇用を義務づけており、国は視覚障害者が働く場として企業にヘルスキーパーの導入を呼びかけている。
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ハローワークなどの紹介で障害者を採用すると給料の一部を国が助成するほか、ヘルスキーパーを雇用する場合、一人当たり450万円を限度にマッサージ室などの施設整備費の3分の2を国が助成する制度もある。
ただ、福岡県高齢者・障害者雇用支援協会は「ヘルスキーパーを採用するのは大企業が中心。景気低迷で中小企業にはそこまでの体力がない」という。九州で働くヘルスキーパーの数は、東京や大阪に比べればまだ少ないのが現状だ。
一方で、うつ病や心身症などメンタルヘルス対策の面でもヘルスキーパーの役割に期待する会社も増えつつある。
九州電力の関連会社で、電気料金徴収などのシステム開発をする九電ビジネスソリューションズ(福岡市)は2006年にヘルスキーパーを採用した。はり治療などを施す田里友邦さん(25)は「ストレスを減らすことにも効果があるようです」と語る。従業員からは「仕事の合間にリラックスできて生産性が上がった」と好評という。
国の肥満
06年以降、ヘルスキーパーとして3人の視覚障害者を採用している人材派遣会社「アソウ・ヒューマニーセンター」(福岡市)。経営企画推進室の高岸伸行さん(34)は「社内で貴重な癒やしの空間。個室でマッサージやはり治療を受けながら愚痴を聞いてもらえることで、首や腰の痛みだけでなく心も軽くなる」。
ヘルスキーパーの一人、芋岡義一さん(26)は「心身ともに癒やせるよう、施術内容のレベルアップだけでなくメンタルケアの知識や技能も身に着けたい」と話す。
●医療費削減も
はり治療の導入で医療費を削減できる-。福岡大学病院で東洋医学診療部長を務める向野義人・福大スポーツ科学部教授は、そんな研究成果をまとめた。
従業員の多くが腰や脊(せき)椎(つい)など運動器官の痛みを訴えていた大手鉄鋼会社の事務所に施術室を仮設し、従業員241人のうち117人に、週1回の割合で八週間、向野教授が開発したはり治療を施した。
その結果、痛みが半減した人の割合は、首や肩の痛みで83%、腰痛は77%、ひざの痛みは88%だった。さらに、医療機関から申請された診療報酬明細書(レセプト)を調べると、運動器が関係する医療費は3分の1に減った。実験終了後も3カ月間、医療費は上がらなかった。
向野教授は「施術者のレベルや内容によって効果は変わる」とした上で「肉体的な痛みだけでなく、抑うつ、怒りや疲労など心理的要因も改善でき、能率も上がる。事業所にはり治療導入するメリットは大きい」と話している。
【写真説明1】福岡銀行本部の健康管理室で従業員にマッサージをするヘルスキーパーの成田千恵美さん=福岡市中央区
【写真説明2】向野義人 教授
=2008/10/26付 西日本新聞朝刊=
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